平成5年3月8日付けで、“人の健康の保護に関する環境規準"が改定され、鉛の規準値が100から10ppbへと強化された。魚類血中5-アミノレブリン酸脱水酵素(ALA-D)は水中鉛の慢性毒性を短期間の試験で評価できる指標として有用でもある。そこで、鉛基準値の妥当性を、(1)種々な水の硬度および種々な水中鉛濃度の組み合わせから成る鉛試験水でのコイ曝露試験(20日間)から確かめた。さらに、鉛汚染の指標としてのコイ血中ALA-Dを野外調査に応用するために、九州北部の河川やダム湖の淡水域で、コイを採捕しようとしたところ、容易に採捕できる魚種はギンブナであった。そこで、ギンブナ血中ALA-Dが鉛汚染の指標となるか、(2)ギンブナの鉛曝露試験(3週間)から確かめた。研究結果を以下のように要約する。 (1)水中鉛10ppbおよび水の硬度50ppm(CaCO_3)の組み合わせから成る試験水に曝露されたコイ血中ALA-Dが対照魚よりも40%も阻害されたことから判断すると、現在の鉛規準値は水質によってはコイに慢性毒性を起こさせる濃度である可能性が示唆された。 (2)わが国の河川水の平均的な水の硬度30ppm(CaCO_3)で調製した水中鉛3、10、30および0(対照)ppbから成る試験水でのギンブナの曝露試験から、血中ALA-D活性は水中鉛濃度とともに低下し、血中鉛濃度は水中鉛濃度とともに上昇し、血中ALA-D活性と血中鉛濃度との間には負の相関(r=-0.79)があった。しかも、鉛規準値10ppbでも対照魚と比べ血中ALA-D活性が30%も低下した。ギンブナ血中ALA-Dは鉛汚染の指標として有用であることは明かである。今後、ギンブナ血中ALA-Dを淡水域の鉛汚染の実態調査に応用したい。
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