コイ血中5-アミノレブリン酸脱水酵素(ALA-D)も、ニジマスなど他魚種血中ALA-Dと同様に鉛汚染の指標として有用である。コイ血中ALA-D鉛汚染の実態調査に広く応用するためには、(1)水銀を使用しない測定法の改良、(2)血液保存法および活性の標準化法の確立が、必要である。また、魚類血中ALA-Dは、水中鉛の慢性毒性を短期間の試験で評価できる指標として有用であるので、わが国の鉛基準値10ppbの妥当性を、(3)コイの鉛曝露試験(20日間)から確かめた。九州北部の河川やダム湖の鉛汚染の実態調査を行うために、コイを採捕しようとしたところ、用意に採捕できる魚種はギンブナであった。ギンブナ血中ALA-Dが鉛汚染の指標となるか、(4)ギンブナ鉛曝露試験(三週間)から確かめた。 研究結果を以下のように要約する。 (1)血液反応液に7%トリクロロ酢酸溶液を加え、添加直後、10および20分後の3回攪はんし、10分間放置すると、従来法(Hg含有)と同様な活性値が得られ、水銀を用いない測定法が開発できた。(2)コイ血中ALA-Dは、血液を氷中に保存すると20日間、ドライアイスや低温(4℃)の保存でも4日間、安定であった。ALA-D活性の表現単位、即ち赤血球(RBC)ml、血液(blood)mlおよびヘモグロビン(Hb)g当りでの標準化の間には、次の換算式が成立した。 nmol PBG/ml RBC/h=3.6×nmol PBG/ml blood/h=0.256×nmol PBG/g Hb/h (3)曝露試験から、現在の鉛基準値は水質によってはコイに慢性毒性を起こさせる濃度である可能性が示唆された。(4)曝露試験から、血中ALA-D活性阻害はギンブナが受けた鉛汚染の程度に応じ、鉛基準値10ppbでも30%の活性阻害があることから、ギンブナ血中ALA-Dは鉛汚染の指標として有用である。今後、ギンブナ血中ALA-Dを淡水域の鉛汚染の実態調査に応用したい。
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