研究概要 |
環境中に存在する様々な環境ストレスは,ある範囲を越えると淘汰圧として働く.この時ストレスを受けた生物群集が感受性の異なる種ないし集団を含んでいると,耐性の増した群集が再構築される.この様にして獲得された群集あるいは集団レベルの耐性を調べることは,環境ストレスの生態系に対するインパクトの有無を知るための有効な手段と考えられる.そこで,緑藻セネデスムスの除草剤感受性株と耐性株を用いて,どの程度のストレス強度で感受性から耐性への入れ替わりが起こるかを測定し,農業地帯を流れる河川の藻類群集について入れ替わる分類群を予測し,実際に検証した.緑藻セネデスムスの感受性株と耐性株の増殖は除草剤シメトリン濃度が10-15μg/Lのところを堺にして,それ以下だと感受性株の増殖速度が耐性株を上回るが,それ以上の濃度だと耐性株の増殖速度の方が速いことを示した.この濃度はセネデスムスの増殖を50%抑制する値(EC50値)と同じであったため,他の藻類種でもこの値を基準として,実際の河川での感受性から耐性への入れ替わりを予測した.河川の除草剤濃度は高々数μg/L程度なため,影響を受けるのは感受性の高いグループ,つまりボルボックス目だけであろうことが予測された.河川から分離した藻類株の除草剤感受性を,調査河川で最も大きなストレスとなっていると考えられるシメトリンとプレチラクロールについて調べた.ボルボックス目のクラミドモナス属や珪藻のキクロテラ属のEC50値が,河川水中の除草剤濃度の増加に伴って増加した.また,これら2分類群のシメトリン耐性の増加はプレチラクロール耐性の増加と相関しており,プレチラクロールが選択圧になっていると考えられた..この結果から,自然環境としては除草剤濃度が比較的高い様な調査河川においても,非常に高い感受性を持ったグループのみが耐性に入れ替わり,藻類群集は除草剤の弱いインパクトしか受けていないと考えられた.
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