酸性雨などの酸性降下物による環境への影響を評価する上で、降下物中の汚染物質に対する環境の自己浄化能の評価は重要である。降下物中の主要な酸性汚染物質はSO_xやNO_xに由来する硫酸や硝酸であるが、その内硫酸は硝酸還元や脱窒によって無毒化される硝酸に比べて生物的に代謝されにくく、環境への影響という点で特に注目される汚染物質である。自然環境下では、硫酸は主要には偏性嫌気性細菌である硫酸還元細菌の異化的硫酸還元作用によって除去される。それ故、硫酸還元能の評価は酸性降下物汚染に対する環境の自己浄化能力を探るうえで重要である。 本研究の目的はHPLCによる硫酸イオンの微量分析に基づく、簡便な硫酸還元活性測定法の開発にある。本年度は、昨年度開発した方法の有効性についての基礎的な検討として、嫌気消化下水汚泥より本研究グループが分離した硫酸還元細菌であるHS-1株、及び代表的な硫酸還元細菌であるDesulfovibrio vulgaris(NCIMB 8303)とDesulfovibrio desulfuricans(NCIMB 8307)の各基準菌株について、硫酸イオンや硫酸還元細菌の濃度と硫酸還元活性測定値との関係を改めて検討するとともに、硫酸還元活性への測定温度の影響についても調べた。硫酸還元活性は本研究で開発した硫酸還元活性測定液に試料を懸濁し、酸素除去窒素ガス下で保温し、硫酸イオン濃度の低下を追跡して測定した。本年度の研究では以下の点が明らかになった。 1.硫酸還元活性測定液の硫酸塩濃度が0.5〜2.0mMの範囲では、少なくとも12時間の保温の間、硫酸還元は硫酸塩濃度に関係なくほぼ一定の速度で進行した。 2.硫酸還元活性の測定値は菌濃度に比例し、細胞当たりないしは菌体タンパク質当たりの値に換算すると、各菌株に固有のほぼ一定の値を示した。 3.保温温度20℃での硫酸還元活性は30℃での活性の約30%であり、10℃では約10%であった。
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