実用的なリン除去技術への要望はいまや全世界的であるのに、生物学的リン除去法はこの方法自体が本来持っている優れた能力に見合うほど使われていないのが実情であった。本研究では、現在利用可能な微生物学的知見と数学的モデリングの手法を組み合わせて、嫌気好気法による生物学的リン除去プロセスの設計・制御を最適化するための基本モデルを開発し、その応用手法の確立を目的とした研究を行った。 モデル定数の同定のために行った実験的研究では、有機物代謝反応の律速になることが多い加水分解反応の速度に対する嫌気・無酸素・好気条件の影響を定量的に検討し、好気条件に比べ嫌気・無酸素条件では加水分解酵素の生産速度が低下すること、そのため加水分解速度も低下することを明らかにした。 一方、リン除去モデルの構築とキャリブレーションに関しては、まず既存モデル(IWAQ活性汚泥モデルNo.2)に対し、リン蓄積微生物への脱窒能力およびグリコーゲン蓄積能力の導入を検討し最終的に前者を導入することとした。この脱窒付加モデルをベースに日本の2つの下水処理プラント運転データを用いたキャリブレーションを行い、その手順を確立した。さらに、既存データを用いたシミュレーションや感度解析を通して、本研究で完成したモデルの挙動の特性と実際のプロセスの特性を比較した。 なお、モデルを用いての生物学的リン除去プロセスの設計・運転管理に関する指針のとりまとめは、当初は予定していたが充分な検討ができなかった。
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