研究概要 |
神経成長因子(NGF)は、神経細胞の分化成熱や生存維持など神経細胞の生涯に重要な役割を果たす蛋白質のひとつで最近アルツハイマー病との関連からも注目されている。本研究では、種々の海洋生物を材料にして、NGF産生促進作用をもつ天然物の探索を行った。その結果、数種の新規化合物を分離しその化学構造を明らかにした。一方、プロテインキナーゼC(PKC)活性化剤によりNGFの発現が増大されることが知られているため、PKCを標的とする海洋天然物の探索も併せて行った。以下その概要を報告する。 沖縄本島で採取した海綿Hyrtios spより2種の新規セスタテルペン(12-O-デスアセチルフロスカラロールと12-O-デスアセチルスカラリン)および6種の既知化合物を分離した。これらの中で、新規化合物2種と既知化合物の1種(ヒルチオサール)は、30〜100μg/mLの濃度でアストログリア細胞におけるNGF産生を5〜6倍促進することが明らかとなった。類似した構造をもつ他の既知化合物にはこのようなNGF産生促進作用は認められず、構造のわずかな差により活性が消失することが判明した。沖縄産のLuffariella属海綿からは、新規シクリトール型リピド、ケルファリドを分離した。この化合物も30〜100μg/mLの濃度で3〜4倍のNGF産生促進作用を示した。興味深いことにこの化合物は、他の複数の属(Biemna sp,Xestospongia spなど)の海綿からも分離された。一方、沖縄産のホヤAplidiummultiplicatumの抽出物からは7種の新規ヌクレオシド誘導体シモフリジンA〜Gを分離し、それらの化学構造を明らかにした。この中で、主成分のシモフリジンAはプロテインキナーゼC阻害作用(IC_<50>20μg/mL)を示すことを見い出した。現在、シモフリジンAのNGF産生との関係については検討中である。
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