サイクリン依存性キナーゼのなかで、細胞周期のG2期からM期への移行を制御するcdc2キナーゼと、脳に特異的に存在し細胞骨格の制御に働くことが考えられるcdk5について、基質特異性の相違を解析した。基質としては、中間径フィラメント蛋白質であるビメンチン及びニューロフィラメント蛋白質のリン酸化部位に相当する合成ペプチドや、それらのアミノ酸置換体アナローグを用いた。その結果、ビメンチンペプチドを用いた解析から、両酵素とも、リン酸化部位のC末端側に隣接するPro残基を重要な基質認識要素として用いること、特にPro残基のN-置換構造とピロリジン環構造が重要であることをみいだした(平成6年度)。さらに本年度において、ニユーロフィラメントペプチドを用いた解析から、cdk5はcdc2キナーゼと比較すると、Pro残基以外に、さらにC末端側に、塩基性アミノ酸であるアルギニンあるいはリジン残基の存在を強く要求することが、kineticsの解析から示された。つまり、cdk5の基質認識における特異性は、cdc2キナーゼよりも厳密であった。これらの結果は、cdc2キナーゼとcdk5が、異なる蛋白質を基質としてリン酸化したり、同じ蛋白質でも異なるドメインをリン酸化することを説明する。また本年度はコンピューターを用いて、基質ペプチドの立体構造予測を行ない、上記の生化学的解析結果と合わせることにより、cdc2キナーゼとcdk5の基質認識に重要な立体構造を検討した。その結果、リン酸化部位周辺がターン(折り返し)構造を取る場合にリン酸化されやすいこと、その構造はPro残基(特にN-置換構造とピロリジン環構造)によって誘導・安定化されることなどが示唆された。これらの成果は、今後の両キナーゼの特異的阻害剤の作製に重要な手掛かりを与えた。
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