ラット肝脂肪酸結合蛋白にはイオン交換クロマトグラフィや電気泳動で分離される、多数の分子種の存在することを明らかにしてきたが、最近、アスパラギン105が脱アミドし続くグリシンとのペプチド結合がβカルボキシル基へ転位したイソアスパラギン酸105をもつ蛋白を見い出した。この酸性の分子種がアラキドン酸をはじめとする高度不飽和脂肪酸に対し、より高い親和性をもつため、この一般には自発的に起こると考えられていた、脱アミド・ペプチド転位反応が、生理的に意味のある翻訳後修飾である可能性が示された。本研究では、この可能性を検討するため、肝実質細胞にこの反応を触媒・促進する蛋白性の因子の存在を検索することを目的とした。 この脱アミド、ペプチド転位反応の追跡を可能とするために、イソアスパラギン酸をもつ蛋白の高感度検出定量法の検討をおこなった。また、この分子種の脂肪酸に対する親和性、タンパク質分解酵素に対する感受性などを定量的に検討するため、イソアスパラギン酸105をもつ分子種を試験管内で生成させることを試みた。 電気泳動後ウェスタンプロットによりイソアスパラギン酸をもつ分子種の検出を検討した。また、イソアスパラギン酸をメチルエステル化し水素化ホウ素リチウム環元によりイソホモセリンに導き、塩酸加水分解後アミノ酸分析による定量を試みた。いずれも、さらに若干の改良を必要とするが、充分目的に合致することが示された。 様々な条件を検討した結果、イソアスパラギン酸105をもつ分子種は、炭酸イオン存在下37℃で保温することにより、定量的に生成することが明らかになった。また、この過程で、さらに酸性の分子種の生成が見いだされた。これは構造解析からアスパラギン2が脱アミドしたものと考えられ、最近発見された、プロテインN-末端アスパラギン脱アミド酵素の反応が非酵素的にも起こりうることを示しており大変興味深い。また、脂肪酸など疎水性のリガンドが結合した蛋白は、タンパク質分解酵素に対し強い抵抗性を示すのに対し、脂肪酸結合蛋白そのものは容易に分解されることを発見した。この現象は細胞内の生理的条件とタンパク質代謝との関連を示唆しており、今後更に検討したい。
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