毒素原生大腸菌の産生する耐熱性エンテロトキシン(ST)は人・家畜に急性の下痢を引き起こすペプチド毒素として知られている。ラットの小腸上皮細胞膜上に存在するSTの受容体蛋白質の精製を試みる過程で、受容体蛋白質が単体ではなく蛋白質複合体として得られてくることを見出した。本研究はSTによる情報伝達系における受容体蛋白質と会合しているこれらの蛋白質の役割を解明するため、当該蛋白質の精製と構造解析を行うことを目的としている。本目的を遂行するために蛍光標識基をもちかつ受容体蛋白質に固定化するための置換基をもつ、天然STに匹敵した受容体蛋白質への特異的結合能を有するSTアナログの合成を行った。合成はSTが毒素活性を示す3つの分子内ジスルフィド結合を有する核ドメインをまず合成し、次にこれを修飾する方法で行った。複合体の精製は蛍光標識化STアナログと結合した状態で行うこととした。ラット小腸から調製した細胞膜試料から、STアナログと結合後可溶化しても、可溶化後STアナログと結合させても同じ蛍光標識化複合体が得られることが分かったので、細胞膜試料を可溶化し、STとの結合能を指標としてゲルろ過カラムにより部分精製したものを精製用試料として用いた。蛍光標識化複合体の精製は現時点で最も効率がよいと考えられる抗体を用いる方法により行うこととした。抗原として、得られる抗体の一般蛋白質に対する非特異的結合がほとんどないと考えられる蛍光標識基を用いた。KLHをキャリアとして兎に免疫し抗体を作成した。抗血清の抗体価はイムノブロット法により評価し、高い抗体価で抗蛍光標識基抗体が作成されていることがわかった。蛍光標識基によるアフィニチィカラムを調製し、これを用いて抗体の精製を行った。現在、この精製した抗蛍光標識基抗体を用いて複合体の精製を進めている。
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