毒素原性大腸菌の産生する耐熱性エンテロトキシン(ST)は人・家畜に急性の下痢を引き起こすペプチド毒素として知られている。ラットの小腸上皮細胞膜上に存在するSTの受容体蛋白質の精製を試みる過程で、受容体蛋白質が蛋白質複合体として得られてくることを見出した。本研究はSTによる情報伝達系における受容体蛋白質のオリゴメリゼーション或いは、受容体蛋白質と会合している蛋白質の役割を解明するため、当該蛋白質の精製と構造解析を行うことを目的としている。本目的を遂行するために前年度合成した蛍光標識化STと蛍光標識にたいする抗体を用いて、ラット小腸より調製した細胞膜試料より蛍光標識化ST-受容体複合体の精製を試みた。抗蛍光標識抗体は蛍光標識化STには特異的に結合するが、受容体蛋白質複合体と結合した蛍光標識化STには結合しなかた。蛍光標識基とSTの間にスペーサーが必要であることが示唆され、(β-Ala)3-Glyを1ユニットとしたスペーサーを導入することとした。合成は天然STと同等の毒素活性をもつ活性持続型アンタゴニストである[D-Cys]5-STp(5-17)を修飾する方法により行っている。一方、前年度合成した蛍光標識化STを用いて、ラットの小腸より調製した細胞膜試料へのSTの結合特性を調べた。ラット細胞膜試料に蛍光標識化STを結合させ、遊離の標識化STを除去した後、非標識化STによる交換実験を行った。この交換反応により、細胞膜試料上に結合した標識化STの一部が遊離してくることが認められた。交換反応後の細胞膜試料を可溶化し、残りの標識化STをゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)により分析した。GFCにより検出された蛍光標識化複合体のピークは交換反応処理の有無に関係なく検出された。これらの結果はラット小腸からの細胞膜試料がSTに対して2種類の結合様式をもつことを示している。即ち、STの受容体蛋白質が2種類の結合サイトをもつか、或いは、結合様式を異にする2種の受容体蛋白質が存在する可能性を示唆している。これらの蛋白質の精製と構造解析も含め、今後さらに研究を進める予定である。
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