前年度の研究成果によりリジルエンドペプチダーゼ(API)のリジン特異性発現にはS1ポケット内のAsp225の側鎖の負電荷と基質リジン側鎖の正電荷との相互作用が最も重要な役割を担っていることが判明した。さらに、S1ポケット内のThr189、Ser214の主鎖カルボニル酸素と側鎖ヒドロキシル酸素がリジン側鎖のε-アミノ基と水素結合を形成してAPIのリジル結合加水分解反応の速度を速めており、Thr189とSer214に部位特異的変異を起こすことで、この2残基が形成する水素結合の重要性の定量に成功した。 今年度は、S1ポケットに存在し、Thr189、Ser214と同様に基質リジンのε-アミノ基と水素結合をしているTrp182の役割に焦点を絞り、この残基を部位特異的変異により、Phe、Tyr Hisに変換した変異体[W182F]、[W182Y]、[182]を作製し、その酵素的性質を検討した。Thr189やSer214の場合と異なり、Trp182の3種類の変異体の動力学逆数(Km、kcat)は野生型とほとんど変化なく、Trp182と基質リジンとの水素、結合はAPIの酵素活性にほとんど寄与していないことが判明した。また変異体のCDスペクトルから、変異体の立体構造も野生型とほとんど差が見られないことが判明した。 以上の結果、APIのリジン特異性は、Asp225の負電荷とThr189、Ser214が形成する水素結合によってもたらされていると結論した。
|