一酸化窒素は広範な生理活性を持つ代謝中間体として注目を浴びている。その生理作用は血管拡張、血圧恒常性の維持や、エンドトキシンショックによる血圧低下に関係すると考えられているのみならず、食細胞による殺菌作用や脳における情報伝達にも関係していることが知られている。一酸化窒素は一酸化窒素合成酵素によるL-アルギニンの酸化反応より合成されることが知られている。一酸化窒素合成酵素はシトクロムP450様のヘムドメインとシトクロムP450還元酵素様のフラビンドメインとから成るマルチドメイン酵素として存在していると考えられており、ヘムドメインの一次構造自体にはシトクロムP450との相同性はほとんど無いにもかかわらず、その特徴的な吸収スペクトルよりシトクロムP450様の活性部位を持つと考えられている。その反応メカニズムはシトクロムP450と同様な一酸素添加反応と考えられているが詳細については不明な部分が多く、その解明が待たれている。本実験ではウシ大動脈上皮細胞mRNAよりcDNAライブラリーを調製し一酸化窒素合成酵素をクローニングした後、PCRを用いて一酸化窒素合成酵素ヘムドメインcDNAを得た。pKK233-2由来の発現ベクターに組み込むことにより一酸化窒素合成酵素ヘムドメイン発現ベクターを構築した。また一酸化窒素合成酵素ヘムドメインC末端に5残基のHistidine(HisTag)を導入し、大腸菌菌体内で発現した一酸化窒素合成酵素ヘムドメインのNi-NTA Agaroseカラムによるアフィニテ-カラム精製を行なった。一酸化窒素合成酵素タンパク質の発現は見られるものの、ヘムの導入が行なわれずP450特有の吸収スペクトルは見られなかった。現在、培養条件および宿主条件の検討を行ない完全型一酸化窒素合成酵素ヘムドメインの発現を試みている。
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