癌細胞と細胞外マトリックス成分との相互作用の解明は、癌細胞の転移を理解し、その抑止策を案出する上にも極めて重要である。とくに癌細胞の内皮基底膜への接着は転移の重要なステップと考えられ、この接着を阻害することにより転移を抑制できる可能性がある。基底膜成分フィブロネクチンやIV型コラーゲンへの癌細胞の接着を阻害する物質の検索を試みた結果、シメジ抽出液にIV型コラーゲンへのマウス肺癌3LL細胞の接着を阻害する活性があることを見い出した。本研究では、IV型コラーゲンを用いるアフィニティークロマトによって、分子量23000の蛋白質を単離し、その特性を明らかにすることを目的とした。 本研究の結果、このシメジIV型コラーゲン結合蛋白質HM-23が3LL細胞のIV型コラーゲンへの接着を阻害することがわかり、また、アミノ酸配列の一部を決定した結果、フィブロモジュリンと類似点があるが、全く新しい蛋白質であることがわかった。HM-23のブロムシアン分解により、約11Kの2本のポリペプチドに切断されることがわかり、ブロムシアン分解物のアミノ酸配列に関する情報から、構造決定された20のアミノ酸を持つペプチド中のメチオニンが中央部にあると考えられた。HM-23に対するポリクローナル抗体を作製し、この抗体を用いてHM-23の結合特性をELISA法で調べた。その結果、HM-23はI型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチンと結合し、また、弱いながらもフィブロネクチンと結合するが、ラミニンとは全く結合しないことがわかった。米ぬか中にもフィブロネクチンと結合する蛋白質が存在することがわかった。本研究で明らかになったような植物蛋白質と動物細胞外マトリックス蛋白質の相互作用の研究をさらに進めることによって、癌細胞転移抑制を含めた細胞生化学の種々の問題に関する新しい重要な知見が得られるものと期待される。
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