培養細胞表面で発見したヒアルロン酸(HA)と血清由来HA結合蛋白質(SHAP)の複合体(SHAP-HA)のSHAPは、インターαトリプシンヒビター(ITI)の構成成分である長鎖に相当する。血清中に存在するITIは3つのタンパク質の複合体で、コンドロイチン硫酸(CS)鎖を持ったビクニンとそのCS鎖に共有結合した2本の長鎖からできている。SHAP-HA形成のメカニズムを解明することが本研究の目的の一つであった。ITIおよびSHAP(血清からの精製品と大腸菌での融合蛋白質)とHAの結合は、アフィニティカラム法、固相法等で検討したが活性はなかった。そこで、共有結合による複合体と考え、結合部位の構造解析を行った結果、SHAPのC末端にあるアスパラギン酸のカルボキシル基とHAのN-アセチルグルコサミンのC6の水酸基がエステル結合していることが判明した。これは、今まで報告されたことのない共有結合であった。さらに、形成反応には血清にある酵素が必要であった。そして、SHAP-HAが作られる時、HAにより置換されたビクニンのITIからの遊離が明らかになった。次に、生体でのSHAP-HA形成の生理的な意義を見つけることがもう一つの目的であった。HA合成活性の高い培養マウス乳癌細胞はその周囲にHAに富んだマトリックス(HARM)を形成する。ITIのみを添加してもHARMの変化はみられないが、ITIと酵素活性を持つ画分の共存、すなわちSHAP-HAを形成されるとHARMの顕著なる増大が観察された。さらに、SHAPそれにビクニンの特異抗体を用いて、癌転移巣と移植ヒト癌細胞の組織(ヌードマウス)を調べた。癌細胞集団にはHAとSHAPの蓄積が見られるが、ビクニンの染色像は周辺部に比べると強度は低下していた。複合体形成が細胞外マトリックスの増大とビクニンの周辺部への拡散を制御している可能性が示唆された。
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