チロシンキナーゼは、様々な外来刺激に対する細胞内応答過程で、一種の情報変換分子として機能すると考えられている。非受容体型チロシンキナーゼであるSrc型チロシンキナーゼも同様の役割を担うと考えられているが、その機能発現の分子機構は未だに解決されていない。その理由として、活性化機構が十分に理解されていないことが挙げられる。Src型チロシンキナーゼはC末端の活性制御領域のチロシン残基のリン酸化によって活性調節されることが知られているが、我々は、その残基を脱リン酸化して、Src型チロシンキナーゼを活性化する働きを持つチロシンホスファターゼを同定してその性質を明らかにすることを目的とした研究を行なった。その結果、1)ラット脳で特異的に発現する受容体型チロシンホスファターゼ(PTP-BEM1と命名)のcDNAをクローニングし、その触媒ドメインにin vitroでSrc型チロシンキナーゼを活性化する能力があることを見い出した。現在細胞系で機能、特異性の確認を進めている。2)不活性型のSrc蛋白質を基質に、それを活性化するホスファターゼを分離精製して一次構造解析を行なったところ、既に報告のあるSH-PTP2のラットホモログであることが判明した。SH-PTP2を、線維芽細胞に導入してSrc型チロシンキナーゼに対する効果を観察すると、SH-PTP2の発現によって細胞の脱接着によるSrc型チロシンキナーゼの活性化が増強され、Srcの標的蛋白質であるp130casのチロシンリン酸化が亢進することを見い出された。この結果から、情報をポジティブに伝える働きがあると考えられているSH-PTP2の作用点の一つとしてSrc型チロシンキナーゼであることが示唆された。
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