細胞の増殖や分化におけるDNAトポイソメラーゼIIアイソザイム(トポIIα、IIβ)の役割を明らかにする目的で、ラット小脳の生後発達およびヒト神経芽腫細胞(GOTO細胞)の分化を調べ、次のような結果を得た。 1)ラット小脳の生後発達:生後1日目(P1)、P3、P5、P20および成熟ラットの小脳を、トポIIαあるいはトポIIβに特異的な抗体で免疫染色したところ、トポIIαは細胞分裂している外顆粒層の細胞にのみ検出されたが、トポIIβは外顆粒層の細胞よりも分裂能を失った内顆粒層の細胞で強く検出された。内顆粒層の細胞核のトポIIβはP5で最も多く、P20では激減し以後同じレベルを保った。P5では顆粒細胞(神経細胞)は盛んにシナプスを形成している時期と考えられ、神経細胞の分化過程とトポIIβの発現との間に強い相関のあることが判明した。また、分裂している細胞でトポIIβがほとんど検出されないことから、トポIIβは細胞分裂の過程には関与しいない可能性が示唆された。 2)ヒト神経芽腫細胞(GOTO細胞)の分化:培養液から血清を除去し神経細胞様に分化させた細胞群と血清を除去しないで同じ期間培養した細胞群のトポII活性を比較した。分化した細胞では明らかにトポIIαの活性が低下していたが、トポIIβの活性は両細胞群の間で顕著な差はなかった。特異抗体による細胞の免疫組織染色およびWestern blotでも同様の結果が得られた。GOTO細胞の分化が充分でなくトポIIβの誘導がおこっていない可能性が考えられた。アンチセンス S-オリゴによるトポIIアイソザイムの発現阻害を試みたが、トポIIαの酵素活性の低下が観察されたのみで、トポIIβの阻害は明瞭でなかった。効果的な分化誘導の系を更に検討し、トポIIβの発現を阻害したときの分化への影響を引き続き検索する予定である。
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