水溶性ビタミンであるビタミンB6(B6)は、アミノ酸代謝を触媒する多くの酵素反応に補酵素として作用することが知られている。本研究では、B6の新しい機能としてB6が遺伝子発現を調節する現象を見い出し、その分子機能を明らかにした。 1 B6欠乏ラット肝臓では、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼmRNA、アルブミンmRNAを含むいくつかのmRNAが誘導されていることを見い出した。 2 B6欠乏ラット肝臓におけるmRNAの誘導は、転写活性の増大に起因することをrun-onのアッセイによって明らかにした。 3 B6欠乏ラットから抽出した核蛋白質とHNF1やC/EBP結合領域に対するオリゴヌクレオチドを用いてゲルシフトアッセイを行った結果、対照群から抽出された核蛋白質に比較してHNF1やC/EBPがDNAに強く結合していることが観察された。 4 転写調節因子のDNAへの結合に及ぼすB6の効果をin vitroで検討した結果、転写調節因子を1mMのピリドキサールリン酸(PLP)と5分間プリインキュベートすることによってDNA結合の抑制が観察された。 5 転写調節因子のDNAへの結合抑制について種々のB6誘導体を検討した結果、PLPのみが特異的に抑制した。これらの結果は、ビタミンB6の活性型であるPLPが転写調節因子とShiff baseを介して結合し、DNAへの結合を抑制していることを示唆している。大腸菌から得られた遺伝子組換えHNF1についても同様の結果が得られた。 6 B6による転写調節因子のDNA結合抑制は他のHNFファミリーやSP1のような転写調節因子にも見られた。 今後、PLPが認識する転調節因子内のアミノ酸を同定すると共に、B6が遺伝子発現を調節する生理的意義を明らかにしていく予定である。
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