研究概要 |
近年、培養細胞は勿論、動物個体の脳内にさえ直接、外来の遺伝子を導入・発現できる分子神経生物学的アプローチが神経科学研究において、また更に神経疾患の遺伝子治療用技術としても望まれ、研究され、また試みられつつある。単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus 1,HSV-1、ここではHSVと略す)は上述の目的の神経親和性ウイルスベクターとしての有力な候補の一つとして期待されている。個体脳を含んだ神経系細胞に感染・発現できる本HSV系によりグルタミン酸受容体の解析を進めるため、NMDA受容体εファミリーサブユニットについてHSV系を構築し、解析しつつある(分子生物学会年会発表(1944年、1955年)、FEBS Meeting発表予定(スペイン、1996))。ε1及びε2サブユニットcDNAをパッケージング用ベクタープラスミド(amplicon plasmid)のCMVプロモーターの下流に組み込み、組換え型HSVを作製した。まず、得られたウイルスについてRT-PCR、ドットブロットを行いDNAの組み込まれていることを確認した。次に、Vero細胞に感染させ、ウェスタンブロットを行い、それらの発現を確認できた。発現した本受容体について生化学的な解析を行うと共に、本ウイルスを用いて、それらのノックアウトマウスを含め、in vivoでの感染実験を計画している。更に、遺伝子の転写開始点より5'上流域をβ-ガラクトシダーゼ・レポーター遺伝子の上流につなぎ、個体における遺伝子発現制御を調べる、いわゆるin vivoプロモーター解析は従来、トランスジュニックマウス等を用いて行われてきたが、本HSV系を用いて、個体脳内in vivo プロモーター解析を行うべく、NMDA型ζ1サブユニット等の遺伝子5'上流域をβガラクトシダーゼ・レポーター遺伝子の5'上流につないだHSVクローンを構築し、PC12細胞を用いて解析を進めている。
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