前年度までにマウス副腎皮質由来のY1細胞をもちいた実験から、CYP11B1遺伝子の転写開始点の上流にAP-1様DNA結合蛋白質が結合すること、この配列がプロモーター活性に不可欠であることが明らかになった。今年度は、Y1細胞の核抽出液に見いだされたAP-1様転写調節蛋白質の同定とその作用機序を明らかにすることを目的として解析を進めたところ以下の結果が得られた。 1.ゲルシフト法により、このDNA結合蛋白質はCYP11B1遺伝子のプロモーター領域には結合するが、副腎皮質の別の細胞層に発現するB2遺伝子のプロモーター領域には結合しないことが判明した。 2.AP-1配列の3'側にAd4配列結合蛋白質(Ad4BP)が存在したが蛋白質の結合は認められなかった。Ad4配列はステロイド合成遺伝子の共通に働く正の転写調節蛋白質として知られている。AP-1配列とAd4配列の転写活性化機能を調べた。その結果、AP-1配列が必須である一方、Ad4配列には転写活性化能は認められなかった。 3.Y1細胞の核抽出液はAd4BPを含むことが知られている。そこで、AP-1配列とAd4配列へのそれぞれの蛋白質の結合を、Y1細胞の核抽出液と2つの部位を含んだプロモーター配列をもつプローブを用いてゲルシフト法とフットプリント法により、詳細に調べたところ、AP-1の結合活性は、Ad4BPの結合活性に比べて少なくとも5倍強いこと、両者の結合は競争的で同時にそれぞれの部位へ結合しないことが判明した。 以上の結果は、AP-1がCYP11B1特異的な因子であること、さらにAP-1が、副腎皮質の全層に存在する転写因子であるAd4BPの結合を抑制して機能しうることを意味する。従って、Y1細胞に見いだされたAP-1は、CYP11B1遺伝子の副腎皮質内における細胞層特異的発現に関与する因子であることを強く示唆している。
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