研究概要 |
芳香族アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(ArAT)におけるジカルボン酸基質および芳香族基質の基質認識機構を,構造上関連の深いアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AspAT)と比較しつつ解析し,以下の知見を得た。 1)二種の基質に共通の構造を認識する装置として,基質α-カルボキシル基と相互作用するArg386からAsn194を介して補酵素PLPの3′-Oに至る水素結合ネットワークの役割を明らかにした。基質の結合は主としてこのネットワークを通じてPLP-Lysシッフ塩基のpKaを高め,それによって基質のアミノ基からプロトンがシッフ塩基に移り,基質と補酵素両方の活性化が同時に起こることを,Arg386・Asn194の単独・二重変異体についての分光学的解析によって示した。 2)基質側鎖の認識部位の解析を行った。ジカルボキシル基質の遠位カルボキシル基はAspATと同様にArg292によって認識されることを確認した。基質アナログのβ-ヒドロキシアスパラギン酸およびβ-ヒドロキシフェニルアラニンとArATの反応を調べたところ,両者とも同様の特徴的な500nmの吸収を示し,この吸収はいずれもTyr70→Phe置換によって消失することからβ-ヒドロキシル基とTyr70の相互作用が考えられ,ジカルボキシル基質と芳香族基質はArAT活性部位で同じ配向をとり,芳香族基質の芳香環はArg292の近傍に位置することが判明した。さらにArg292置換酵素と芳香族基質の反応の解析により,Arg292の側鎖が基質芳香環結合部位の一部を形成していることが明らかとなり,Arg側鎖がグアニジノ基部分と脂肪族部分を基質の種類に応じて使い分けているという新しい基質認識機構の可能性が指摘された。 3)アミノトランスフェラーゼの反応機構解析のために不可欠である立体構造の解析について,大腸菌AspATは解析が進み,ピリドキサミン型酵素の構造をはじめて明らかにすることができた。一方大腸菌ArATはようやく再現性よく単結晶を得ることができるようになったが,X線解析に耐えうる良質の結晶を得るに至っていない。現在結晶化条件の検討を続けているが,良質の結晶が得られない理由として大腸菌ArATの蛋白質としての特性も考えられる。そこで近縁種のサルモネラ菌のArATを大腸菌酵素と平行して結晶化を進めることを目的にそのクローニングを行った。現在得られたクローンについてその一次構造を解析中である
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