研究概要 |
芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素(ArAT)の基質認識部位の構造については,平成6年度のβ-ヒドロキシアミノ酸と野性型およびY70F変異体を用いた研究により,ジカルボキシル基質のカルボキシル基結合部位であるArg292の近傍に芳香族基質側鎖の結合部位が存在することが示された。そこで、Arg292を他のアミノ酸残基に置換した酵素を作製して,その芳香族基質との反応の変化を調べたところ,中性アミノ酸残基への変異によりk_<cat>は変わらなかったが,K_mが10倍上昇した。この結果,Arg292がジカルボキシル基質のカルボキシル基のみならず,芳香族アミノ酸の芳香族側鎖の認識 u関わっていることが示された。また,同様の正電荷をもつリシン残基に置換するとk_<cat>は変わらず、K_mが100倍上昇したことから,Arg292のグアニジノ基の存在が基質芳香環の認識に重要であることが示された。このグアニジノ基の芳香環認識への関与がどうなっているか,また酸性基質に厳密な特異性を示すアスパラギン酸アミノ基転移酵素のArg292との機能上の違いは何であるかが,次の課題となった。このため,基質(類似物)結合状態でのArATの立体構造情報が不可欠であるが,当初予定していた大腸菌ArATの結晶化は困難であることが判明した。そこで,種々の菌種のArATを研削したところ,Paracoccus denitrificansのArATがX線解析に供しうる良好な結晶を形成することができたので,現在本酵素と芳香族基質の相互作用を構造と反応の両面から解析中である。
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