研究概要 |
芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素(ArAT)は芳香族アミノ酸のみならずアスラギン酸等の酸性アミノ酸をも基質にするという極めて特徴的な基質認識機構を有する。平成8年度までの研究結果により,酸性アミノ酸の遠位カルボキシル基と同一の部位に芳香族アミノ酸の芳香環が結合し,Arg292が基質の種類によってその側鎖の位置の切り替えを行っていることが判明した。 この292位残基に要求される構造的特性を調べた結果,Arg側鎖でなければならないこと,すなわち側鎖のグアニジノ基がArATの他の部分との相互作用を通じて基質の種類に対応した側鎖の適正な配置をもたらしていることが示された。この機構を詳細に明らかにするために大腸菌ArATについてX-線結晶解析を試みたが,良好な結晶を得ることが出来かなった。Paracoccus denitrificansのArATをクローニング・大量発現・精製したところ,良好な結晶を得ることが出来たので,本Paracoccus酵素について研究を進めることにした。本酵素は分子量・サブユニット構造・吸収スペクトル等の物理化学的性質において大腸菌酵素と極めて類似していた。基質特異性も基本的に大腸菌酵素と類似し,芳香族アミノ酸とアスパラギン酸・グルタミン酸等の酸性アミノ酸に対する活性が高かった。 L-erythro-3-フェニルセリン,L-erythro-3-ヒドロキシアスパラギン酸との対応の解析結果は,大腸菌酵素と同様酸性アミノ酸の遠位カルボキシル基と同一の部位に芳香族アミノ酸の芳香環が結合していることを示した。興味深いことに,大腸菌酵素は芳香族アミノ酸以外の中性アミノ酸をも良好な基質とし,基質の疎水性に基づいた基質認識を行っていると考えられるのに対し,Paracoccus酵素は非芳香族アミノ酸よりも芳香族アミノ酸に対する活性が遥かに高く,芳香環の特異的な認識を行っていることが示唆された。従って,Paracoccus ArATは二重基質認識機構の解明に極めて適した酵素であることが判明した。X線結晶解析のグループと共同でホロ酵素のX線結晶解析を終了した。目下基質アナログ結合時の結晶解析を行い,カルボキシル基結合から芳香環収納への切り替えの分子機構の解明を進めている。
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