生体の機能を発現し維持するためには、高度に厳密な分子認識を必要とする。遺伝暗号の発現にかかわるtRNAは、暗号とアミノ酸を直接結びつける鍵となる分子種である。細胞内に存在する数十種類のtRNA分子は、みな類似のクロバ-葉二次構造、L字型三次元構造を有しているが、アミノアシル-tRNA合成酵素はそれぞれに対応するtRNAとアミノ酸を厳密に認識し、アミノ酸を活性化している。tRNAのアミノアシル-tRNA合成酵素による認識部位を大腸菌と真核生物である酵母、および前核生物であるが、高温度の環境下に生育する高度好熱菌のトレオニンおよびグリシンtRNAについて認識部位の同定を行い、進化の過程で認識部位に差異が起きているかどうかを研究した。 トレオニンtRNAについて見ると、アクセプターステムの末端塩基対とアンチコドンの2文字目、3文字目は大腸菌、高度好熱菌、酵母共に共通の認識部位として保存されていたが、アクセプターステムの2番目の塩基対認識に差が見られた。また、識別位塩基については、大腸菌のA73は認識に全く関わっていないが、酵母のA73と高度好熱菌のU73は程度に差異はあるものの認識に必要であり、進化の過程で変化してきたことを推測できる結果が得られた。グリシンtRNAの場合は、アクセプターステムの2番目の塩基対、アンチコドンの2文字目、3文字目は大腸菌、高度好熱菌、酵母共に共通の認識部位として保存されていた。識別位塩基はバクテリアではU73、酵母ではA73と異なっているが、共に認識部位となっていた。その他にはバクテリアではアクセプターステムの1番目の塩基対が認識されていたのに対して、酵母ではアクセプターステムの3番目の塩基対が認識されている違いが見られたが、基本的には異なるサブユニットを持つ酵素系でも認識部位の共通性が見られると結論された。
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