本年度おいては、光反応中間体の吸収(蛍光励起)スペクトルを、その寿命(1-10ms)のうちに測定できること、さらに、対象種の蛍光量子収率(Ф_F)が10^<-3>程度であっても測定できることを目的とした装置を完成させ、レチナ-ル蛋白の光反応中間体の吸収(蛍光励起)スペクトルを測定することができた。以下に成果の概要をまとめる。 1.蛍光励起スペクトルの対象試料は当然のことながら蛍光性であることが要求される。しかしながら、本研究では「蛍光性」と「無蛍光性」と境界であるФ_F〜10^<-3>の化学種のスペクトル測定を可能とした。 2.しかも、試料の蛍光は、光電測光において感度の得にくい近赤外領域(700-850nm)であったが、検出器を冷却することなく測定できた。 3.検出には時系列光子計数器を採用することにより、対象とする反応中間体の生成ならびに崩壊をリアルタイムで見ることができ、最も適切な遅延時間におけるスペクトルを測定することができた。 4.バクテリオロドプシンの光化学サイクルの最終段階において生じるO640中間体(Ф_F=0.001)の吸収(蛍光励起)スペクトルを測定できた。従来の時間分解吸収分光より求められた吸収極大は640nmにあるとされてきたが、今回の測定で620nmであることがあきらかになった。 5.アルカリ条件において生じる微量のQ中間体の蛍光励起スペクトルも測定でき、その吸収極大は590nmにあり、QはバクテリオロドプシンともOとも異なる色素蛋白であるととがわかった。
|