Arthromyces ramosus由来のペルオキシダーゼ(ARP)のシアンイオンおよび三ヨウ素イオン結合型の立体構造をX線結晶解析により決定した。これらより、活性部位を構成する残基の構造変化を明らかにし、構造・反応相関に示唆を与えた。平成6年度の研究成果は以下の通りである。 1.ARP結晶にsoaking法でシアンイオンを結合させ、pH7.5、5.0および4.0における構造を1.6Å分解能で調べた。いずれの構造もプログラムXPLORを用いて、約3万7千個の独立反射に対し、R値が18%まで精密化した。シアンイオンは、ヘムの遠位側でヘム鉄に結合し、bent型をとっていた。pHによる構造の違いは認められなかった。シアンイオンが結合することにより、ヘム鉄はほぼヘム面内に位置するようになった。遠位側ヒスチジンのイミダゾール環はシアンイオンに近づくようにC_β-C_γ結合まわりに回転し、N_εとシアンイオンとの間に水素結合ができた。 2.三ヨウ素イオン結合型ARPのpH6.5および5.0における構造を、1.9Å分解能で決定した。このイオンが結合するに伴い、ヒスチジンのC_α-C_βおよびC_β-C_γ結合まわりに回転が起こった。pHの違いによる構造の差異は認められなかった。 3.上記2種のイオンがヘムに結合するに伴い、遠位側のヒスチジンのみがコンフォメーション変化を起こし、アルギニンはコンフォメーション変化がほとんど起こらなかった。これらの情報をもとに、過酸化水素が活性部位にどのように結合するかをコンピュータグラフィクスを用いてシミュレートし、この酵素が触媒する反応の素過程および活性残基の役割について示唆を与えた。
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