アクチンの細胞骨格としての働きは、種々のアクチン調節タンパク質により制御されているので、その制御機構を解明することは細胞の働きを理解するうえで重要である。ゲルゾリンは広く脊椎動物の体液や細胞内に見い出されるアクチン調節タンパク質の一つで、そのアクチンに対する作用は多岐にわたる。本研究では、ゲルゾリンの作用機作を詳細に解明することを目的とし、アクチン架橋二量体を利用してアクチン-ゲルゾリン複合体(A_2G)の構造を明かにした。 化学架橋剤パラフェニルヂマレイミド(p-PDM)は、アクチン重合の核形成時に作用させると、それ自身重合できないアクチンダイマー(LD)を固定化し、一方、F-アクチンに作用させると重合可能なダイマー(UD)を固定化する事が知られている。そこで、p-PDMをA_2G複合体に反応させ、複合体中のアクチンを固定化したところ、LDが現れ、UDは現れなかった。更にUDとLDがゲルゾリンの活性に与える影響を調べたところ、いずれのダイマーもゲルゾリンの核化活性および切断活性を阻害した。これらの結果から、A_2G複合体中のアクチンダイマーは、LDとUDのいずれとも異なる構造をとってアクチン重合を促進することが明らかとなった。次に蛍光エネルギー移動を測定してA_2G複合体中のアクチンの特定残基間の距離を求めた。その結果、複合体中の二つのアクチンのCys-374間の距離は55Åで、これはF-アクチン中の隣り合う二つのアクチンのCys-374間の距離より長かった。また、A_2G複合体中の一つのアクチン分子内のCys-374-Gln-41間の距離は46Åと求められ、F-アクチン中のアクチン分子内Cys-374-Gln41間の距離49Åに近い地となった。これらの結果から、p-PDM架橋の実験同様、A_2G複合体中のアクチンダイマーはF-アクチンのサブユニットと異なった立体配置を持っていることが結論され、Cys-374付近のC末端ペプチド鎖が移動している可能性が示された。
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