平滑筋が収縮する時、ミオシンが分子モーターとして働いて、アクチン繊維の滑り運動を引き起こすことはよく知られている。本研究の目的は、ミオシンの二つの頭部がアクチン繊維と相互作用する時に協同的な作用があるかどうかを明らかにすることである。我々は、既に、アクチン繊維に結合したミオシンにゼロ距離の化学架橋剤を作用させた時、ミオシンの二つの頭部間に架橋が起こることを発見し、アクチンと相互作用しているミオシン頭部間には接触領域が存在することを明らかにした。また、この領域はミオシン重鎖ペプチドのN末端に比較的近いところにあることを明らかにした。ミオシン頭部の接触領域にあるアミノ酸残基を遺伝子工学的に別の残基で置き換えたミオシンを作ることができれば、接触領域の生理的役割を研究する非常に強力な手段となる。そこで、私は、バキュロウイルスを使った蛋白質発現系で平滑筋ミオシンを作ることを試みた。ニワトリ砂のう筋ミオシン遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを遺伝子工学的に作り、これを昆虫培養細胞を感染させた。培養細胞内に砂のう筋ミオシン蛋白質が発現したことをSDSゲル電気泳動で確かめた。ウイルスに感染した昆虫培養細胞を低張溶液で壊した後、一本の重鎖と二本の軽鎖で出来たミオシンを細胞外に取り出した。さらに、アクチンを加えてミオシンを沈澱し、イオン交換クロマト法でミオシンを単離した。こうして得たミオシンはアクチンで20倍以上活性化されるATPase活性を持っていた。さらに、この活性化にはミオシン軽鎖のリン酸化が必要であった。これらは既に知られている砂のう筋ミオシンの性質と同じであった。今後は、接触領域のアミノ酸残基に点変異を導入したミオシンを作り、その性質を調べて接触領域の役割を明らかにしてゆく計画である。
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