ニワトリ砂のう筋ヘビーメロミオシン重鎖遺伝子の特定の部位に人工変異を導入し、昨年度報告したバキュロウイルス-培養昆虫細胞発現系を使って、そのヘビーメロミオシンの生成を試みた。既に、9種類の変異ヘビーメロミオシンを精製し、その性質を調べた。その結果、次のような興味ある変異が見つかった。 1.1993年のScience誌にミオシンサブフラグメント1(頭部断片)のX線結晶構造解析の論文が発表されて、ミオシンのアクチン結合部位にはいくつかの疎水性アミノ酸残基が蛋白質表面に露出していることが明らかになった。我々は露出した疎水性アミノ酸残基クラスターの一つTrp^<546>-Phe^<547>-Pro^<54S>を人工変異し、これらのアミノ酸残基の機能的役割を研究した。その結果、アクチン非存在下の変異ヘビーメロミオシンATPase活性は野生型とほとんど変わらなかったず、アクチン存在下のATPase活性は野生型のそれに比べて著しい低下が見られた。また、変異ヘビーメロミオシンとアクチンのrigor結合は野生型で観察されたような典型的な矢尻構造を作らないことが電顕により明らかになった。この結果から、これらのアミノ酸残基はアクチンとの疎水結合の重要な構成員であると結論できる。 2.ニワトリ砂のう筋ミオシンのゼロ距離化学架橋実験から、ミオシン重鎖Lys^<S45>と調節軽鎖C-末端に局在するアスパラギン酸クラスターの間に静電的相互作用があることがわかった。架橋部位が空間的には調節軽鎖リン酸化部位と非常に近いので、架橋部位のミオシン機能調節への関与を予想し、架橋部Lys^<S45>及びその近接部位Lys^<S47>に変異を入れたヘビーメロミオシンを作成し、軽鎖リン酸化の調節に対する影響を調べた。予想に反して、変異ヘビーメロミオシンのアクチン存在下のATPase活性は野生型と同様リン酸化により著しく増大した。
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