平滑筋が収縮する時、ミオシンはアクチン繊維の滑り運動を引き起こす分子モーターとして働くことはよく知られている。本研究の目的は、ミオシン頭部がアクチン繊維と滑り合うために不可欠なミオシン頭部アミノ酸残基はどれかを明らかにすることである。アミノ酸残基の役割を研究するためには、そのアミノ酸残基を遺伝子工学的に別の残基に置き換え、この蛋白質を調べるのが最も直接的である。本研究では、遺伝子から蛋白質を発現する実験系を始めに開発した。平滑筋ミオシン遺伝子の一部を挿入したバキュロウイルスを培養昆虫細胞に感染させることにより、即ち、昆虫細胞の蛋白質発現系を使ってミオシンより分子量の低いヘビーメロミオシンを発現することにした。感染後、48時間で昆虫細胞内にヘビーメロミオシンが生成した。低張液で細胞を壊した後、アクチン結合、イオン交換クロマトグラフィー等の操作でこれを精製した。得られたヘビーメロミオシンは蛋白分解酵素でミオシンを切断して得られたヘビーメロミオシンと構造的にも活性的にも区別できなかった。蛋白質発現系を完成出来たので、ヘビーメロミオシン重鎖遺伝子に変異を導入し、発現実験を行った。既に、9種類のヘビーメロミオシンを精製した。いくつかのヘビーメロミオシンは興味ある性質を示した。例えば、 1.ミオシン重鎖のTrp^<546>-Phe^<547>-Pro^<548>を別の残基に置き換えたヘビーメロミオシンはアクチンによる活性化を受けなかった。これはアクチンとの結合が異常になったことが原因と見られるので、これらの疎水性アミノ酸残基はアクチンとの疎水結合に関与すると結論できる。 2.ミオシン重鎖のリジン残基Lys^<845>と調節軽鎖の間には相互作用のある。Lys^<845>および隣接するLys^<847>に変異を入れたヘビーメロミオシンを作成し、軽鎖リン酸化の影響を調べた。予想に反して、変異ヘビーメロミオシンのATPase活性はリン酸化に感受性を示した。
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