出芽酵母のINO1やITR1遺伝子はイノシトールによって顕著に転写調節を受ける。ire15変異株はこれらの遺伝子の発現に欠損を持ち、イノシトール要求性を示すことがわかっている。既に我々はこのire15変異株を用いて、そのイノシトール要求性を相補する酵母遺伝子を6種類、さらにヒトcDNAを4種類単離している。今回酵母遺伝子とヒトcDNA各々一つについて、その構造と機能の解析を行った。酵母の遺伝子SCS2は、コリン感受性変異株CSE1の抑制遺伝子として単離されている遺伝子と同一であることが明らかになった。塩基配列決定の結果、相補に必要なDNA断片の中には、二つのORFが見いだされた。PCR法により二つのORFの遺伝子を単離し、相補に必須のORFを同定した。このSCS2遺伝子は244アミノ酸の蛋白をコードする。遺伝子産物はC端に疎水性領域を有し、分子内に短い繰り返し配列を持つ。酵母ゲノム解析で報告されている別の遺伝子と相同性が見られ、また線虫のcDNAとも高い相同性が見られた。一方ヒトcDNAのHCP1は360アミノ酸からなる蛋白をコードする。酵母ゲノム解析で報告されている遺伝子と相同性が見られ、また線虫、ウニ、イネ、シロイヌナズナ等のcDNAとも高い相同性が見られた。酵母の相同遺伝子を単離し、ire15変異を相補できるかについて調べたところ、ヒト遺伝子と同様に機能することが明かになった。さらにINO1遺伝子の発現に対するこれらの遺伝子の効果を調べたところ、いずれもINO1の転写を高めることがわかった。これらの結果から、酵母のSCS1遺伝子やヒト及び酵母のHCP1遺伝子の産物はINO1の転写に関わってることが明確に示された。
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