本研究では、ニワトリ胚発生過程における軟骨形成や初代軟骨細胞の増殖・分化におけるFosファミリータンパク質の機能を解析する為にFos/Junファミリータンパク質から形成される転写制御因子AP-1の動態の全体像やレトロウィルスベクターによる個々の構成遺伝子の強制発現の効果を、初期胚における肢芽形成、および胸骨由来の初代培養系に注目して研究を行い以下の結果を得た。 1.1.5日胚の予定右後肢芽領域に限局して、濃縮した複製能完備型レトロウィルスをマイクロインジェクション法で導入し、右後肢芽全域にウィルス感染をおこさせて異所発現を行わせる方法論を確立した。現在ニワトリで知られるすべてのfos遺伝子ファミリー(c-fos、fra-2)及びjun遺伝子ファミリー(c-jun、junD)をそれぞれ強制発現させたが、骨形成パターン、骨の形態をはじめ、表現型は非感染のものとかわらなかった。しかしFBJ-MuSV由来のv-fos遺伝子を導入した所、大腿骨、脛骨等の長骨すべての長さが短くなった。切片の観察から、感染肢芽の長骨では増殖軟骨が主で、成熟軟骨や、肥大軟骨は著しく少なく、石灰化も遅れていることがわかった。c-fos発現ウィルスでは、このような短縮はほとんど見られないことから、両者には機能上に質的な差異があると考えられる。今後その分子機構に注目して解析を進めたい。 2.胸骨の下部由来(LS)と上部由来(US)の培養細胞のAP-1構成タンパク質の発現を詳しく検討した。その結果、c-Junの発現量がより未成熟なLSの方で発現量が高いという差が両者の間で検出された。またc-Junの強制発現はUSの分化の抑制と増殖の活性化を引き起こすことがわかった。AP-1活性を一括して抑制するsupJunD-1を発現させると、これとは反対に増殖を抑制し、分化を活性化することがわかった。
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