肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)は多様な生物活性(上皮細胞の細胞運動を亢進するmotogenとして、また管腔形成などの形態形成を促進するmorphogenとしての活性)を有するpleiotropic factorであることが明らかになっている。しかしながら、HGFの細胞内情報伝達機構に関しては不明な点が多い。本研究では、HGF作用に対し負の調節因子とし働くチロシンホスファターゼ(protein-tyrosine phosphatase;PTPase)に注目し、HGFの細胞内情報伝達機構の一端を明らかにすることを目的とした。 平成6年度は、初代培養肝細胞に存在するPTPase活性の測定系の確立と、HGFによるPTPase活性の変動、さらに細胞密度に依存したPTPase活性の変動について検討し、以下の結果を得た。 1.初代培養肝細胞のPTPaseは、従来よく使われるパラニトロフェニルリン酸を基質にすると活性は検出できず、いくつかの基質を検討した結果、hirudinのホスホチロシンを含むC末(53-65)fragmentを良い基質とすること、 2.初代培養肝細胞のPTPase活性は、HGF(20ng/ml)処理により、10分以内に活性が上昇すること、HGFによるPTPase活性の上昇はバナジン酸処理により阻害され、オカダ酸処理により影響を受けないこと、 3.初代培養肝細胞には、細胞密度に依存して活性の上昇するPTPaseが存在すること、 を明らかにした。しかしながら、本研究で見い出したPTPaseの生理的役割を検討するには不十分な点が多く、研究発表には至っていない。 平成7年度は、HGFの濃度効果、time courseを詳細に検討し、さらにHGF処理や細胞密度に依存して活性の上昇するPTPaseの細胞内局在などを明らかにし、研究発表の予定である。
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