肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor ; HGF)は多様な生物活性(上皮細胞の細胞運動を亢進するmotogenとして、また管腔形成などの形態形成を促進するmorphogenとして活性)を有するpleiotropic factorであることが明らかになっている。しかしながら、HGFの細胞内情報伝達機構に関しては不明な点が多い。本研究では、HGF作用に対し負の調節因子として働くチロシンホスファターゼ(protein-tyrosine phosphatase ; PTPase)に注目し、HGFの細胞内情報伝達機構の一端を明らかにすることを目的とした。 本研究では、初代培養肝細胞に対するPTPase活性の測定系を確立し、HGFによるPTPase活性の変動、さらに細胞密度に依存したPTPase活性の変動について検討し、以下の結果を得た。 1.初代培養肝細胞のPTPaseは、従来よく使われるパラニトロフェニルリン酸を基質にすると活性は検出できず、いくつかの基質を検討した結果、hirudinのホスホチロシンを含むC末(53-65)fragmentを良い基質とすることを明らかにした。 2.初代培養肝細胞のPTPase活性は、HGF(20ng/ml)処理により、10分以内に活性が上昇すること、HGFによるPTPase活性の上昇は、バナジン酸処理により阻害され、オカダ酸処理により影響を受けないことを明らかにした。 3.初代培養肝細胞には、細胞密度に依存して活性の上昇するPTPaseが存在することを明らかにした。 しかしながら、これまでの研究成果からは、本研究で見出したPTPaseの生理的役割を討論するには不十分な点が多く、今後HGFの濃度効果、time courseを詳細に検討し、さらにHGF処理や細胞密度に依存して活性の上昇するPTPaseの細胞内局在などを明らかにする必要があり、継続して研究を進めていきたいと考えている。
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