我々と別のグループが発見したアダプター蛋白質Grb2/Ashは、細胞外から受容体に伝わった刺激をRasなどに伝えるという、シグナル伝達系の鍵となる連結分子のひとつである。我々は昨年度に引き続き、その機能の解析を更に進めた。まず、Ashに対する抗体を細胞に微量注入する実験を発展させ、以前我々が明らかにしたAshの細胞膜ラフリングへの関与がインスリン刺激に際しても存在することを示した。また、GST融合蛋白質や免疫沈降法を用いてAshと他の蛋白質との相互作用を調べ、上流側では、AshのSH2ドメインは、刺激を受けてリン酸化された上皮成長因子受容体の特定のチロシン残基に直接、また別のチロシン残基にはShcを介して間接的に結合することを明らかにした。一方、下流側では、AshのSH3エドメインはRas蛋白質に対するグアニンヌクレオチド交換因子であるSos、ミクロチュブール結合性GTPaseであるダイナミンのほかに、新規分子N-WASP、シナプトジャニンに会合することを見出した。また、cDNAライブラリーを念入りに再スクリーニングすることにより、Ashにはスプライシングの違いにより生成したサブタイプが存在することを発見し、タイプによってそのSH3ドメインに結合する下流分子に違いがあることを示した。このように、Grb2/Ashを巻き込んだ複雑な分子間相互作用のネットワークを明らかにしたことにより、Ashを介したシグナル伝達系の解析は相当程度進展し、その生理的役割の解明に向けての重要な知見が得られた。現在我々はさらに進めて、AshのSH3に結合する蛋白質を包括的に検索するという作業を進めているが、完全なSH2ドメインを持ち、転写制御因子様の配列を含む新規分子など、Ash下流で働くシグナル伝達分子と思われるクローンが得られたので、それらについて解析を進めている。
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