昨年度までに、バフンウニ、ミラサキウニ、アカウニおよびヨツアナカシパンにおける甲状腺ホルモンの作用を調べ、発生に伴うこのホルモンの存否と変動を調べたので、本年度は次の諸点を調べた。 ヨツアナカシパンでは甲状腺ホルモン(T4とT3)によって発生が促進され、その含有量も発生に伴って増加し、変態直前に急激に増加することがわかったが、甲状腺ホルモンの合成阻害剤であるチオウレアやヨウ素の取り込みを阻害する過塩素酸カリウムによって、幼生期の発生が阻害されるので、これらの阻害剤が直接甲状腺ホルモンの含有量を低下させているかどうかを明らかにするために、阻害剤の存在下での甲状腺ホルモンの含有量を調べた。その結果、阻害剤の存在下では甲状腺ホルモンの含有量が低下することが明らかとなった。従って、ヨツアナカシパンは、ヨウ素を海水中から取り込んで、自ら甲状腺ホルモンを合成し、その影響のもとで変態まで発生が進み、甲状腺ホルモンを低下させると発生速度が大幅に遅延することが明らかとなった。 同様な研究をニセクロナマコを用いて調べた。ニセクロナマコは胚から長期間を要するオ-リクラリア幼生を経て、さらに短期間のドリオラリア幼生となり、変態して稚ナマコになるという発生過程を経る。ナマコの胚あるいは幼生に甲状腺ホルモンを与えると、発生は停止し、特に発生後期に与えた場合には、顕著な退化現象が観察された。この現象はバフンウニやムラサキウニで見られたように、甲状腺ホルモンが幼生器官の退化と成体原基の形成に有効であったのと同様に、幼生の退化に効果をもつものと考えられる。しかし、イトマキヒトデの発生に対しては、甲状腺ホルモンは効果を示さず、その含有量も低かったので、系統分類学的に網または亜門間の相違を検討しなければならない。
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