メダカは脊椎動物の原形として発生生物学の秀れた実験動物となっている。このメダカで遺伝子ターゲッティングの技術を確立するための第一段階として胚幹細胞株(ES細胞)を樹立し、多分化能を調べた。さらにこれを胚に移植して、キメラ形成を調べた。体色が野生型の純系メダカHNIの胞胚期の細胞を白血病阻止因子(LIF)、繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、コイ血清、牛胎児血清などを添加したマウスES細胞の培養で用いられている培地で培養した。最初に、メダカから得たフィーダー細胞を用いてOLES1を樹立した。次いでフィーダーを用いない通常の方法でOLES2を樹立した。これら二つの細胞株は7-10μmと小型である、細胞質の大部分を核が占める、活発に増殖しコロニーを形成する、など細胞の形態、増殖様式ともにマウスのES細胞に酷似していた。二つの細胞株は、レチノイン酸で処理すると黒色素細胞、ドーパ陽性細胞、トロポニンT陽性細胞、筋肉様細胞、神経様細胞などに分化し、これらの細胞株が多分可能をもつことが明らかになった。二つの細胞株をアルビノメダカの後期桑実胚から胞胚期の胚に移植した。黒色素細胞の分化は今のところ見られていない。蛍光標識した細胞を移植して、その行動を追跡すると一部の細胞は宿主胚に取り込まれることが明らかになった。これら二つの細胞株は魚類では初めての多分可能をもつ胚幹細胞株である。これらの細胞を用いて生殖系列キメラを形成することが今後の課題である。
|