Ad4BPはステロイドホルモン産生に関与するP‐450遺伝子群の転写調節因子として単離された。本研究では、この転写因子がステロイドホルモン産生組織の分化にいかに関与するかを調べた。 生殖腺におけるAd4BPの発現を検討し、以下の結果を得た。(1)Ad4BPは生殖腺の性分化が認められる以前の生殖隆起に発現しており、発現に性差は認められなかった。(2)生殖腺の性分化の進行と共に、精巣で高く卵巣で低い発現が認められる。(3)性依存的な発現は、生後1週から3周にかけて雌雄で逆転する。(4)副腎皮質での発現も、この組織が腹腔内に現われる以前に認められ、高い発現が成獣まで続く。しかしながら、副腎では、性に依存した発現量の差は認められない。(5)脳下垂体ゴナドトロプ、視床下部内腹側核においても発現が認められた。 Ad4BP遺伝子のノックアウトマウスの解析より以下の結果を得た。(1)Ad4BP遺伝子の破壊により、生後1周前後に死ぬ。(2)これらマウスには、副腎と性腺が認められず外性器は雌型を示した。(3)脳下垂体ゴナドトロプの減少と、ゴナドトロプにおけるLH/FSHの著しい発現低下が認められた。(4)視床下部内腹側核における神経細胞の減少は認められなかったが、内腹側核としての形態を有していなかった。 本因子が生殖腺、副腎の発生分化に不可欠であること、更に生殖腺の性分化に関与することが明かになった。また、脳下垂体ゴナドトロプや視床下部内腹側核における発現から、本因子は単に生殖腺の発生分化や機能維持のみならず、生殖活動全般を統括する因子として機能することが示唆された。
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