研究概要 |
ニワトリ胚の一次求心性軸索は孵卵3日でエントリ-ゾーンから脊髄へ侵入し、その後脊髄白質(後索)を長軸方向に走行し、孵卵6日以後に灰白質内の標的領域に侵入するようになる。これまでに申請者は一次求心性軸索の脊髄侵入から灰白質侵入に至るまでの3日間の“waiting period"の現象が凍結切片法(脊髄の凍結切片上で脊髄神経節細胞を分散培養する方法)で再現できることを明らかにした。すなわち、孵卵5日の脊髄凍結切片上で白質から灰白質に侵入する脊髄神経節細胞の神経突起は約1割であるが、孵卵9日の脊髄切片上では約半数の神経突起が白質から灰白質に侵入する。“waiting period"における細胞接着分子の役割を明らかにするために、孵卵5日の培養系の培地にNg-CAM(neuron-glia cell adhesion molecule)やNr-CAM(Ng-CAM related CAM)に対する機能阻害抗体を加えると脊髄白質から灰白質に侵入する神経突起のわりあいが4割まで増加した。一方、NCAM(neural cell adhesion molecule)に対する抗体や正常血清ではこのような効果は認められなかった。従って、一次求心性軸索の投射路形成における“waiting period"の過程にはNg-CAM, Nr-CAM等の複数の細胞接着分子が関与することが明らかになった。 凍結培養法は細胞接着分子等の膜結合分子の検出に適しており、この方法で脊髄一次求心性軸索の“waiting period"は再現できたが、脊髄エントリ-ゾーンへの投射を再現できなかった。このことはエントリ-ゾーンの認識には細胞接着分子以外の因子(例えば拡散性因子)が関与する可能性を示唆している。そこで孵卵3-3.5日の脊髄神経節を脊髄などの組織とコラーゲンゲル内で1-2日共培養した。その結果、非標的(すなわち軸索が投射しない領域)である脊髄腹側部、皮筋節、脊索から軸索反発因子が放出されることが明らかになった。一方、標的を含む脊髄背側部はなんら脊髄神経節からの突起伸長に影響を及ぼさず、標的からの軸索誘引因子の存在は示されなかった。以上の実験より、エントリ-ゾーンの認識には少なくとも非標的からの軸索反発因子が関与する可能性が示された。
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