上頚神経節に神経標識物質であるWGA-HRP溶液を注入して、そこに存在している交感神経細胞を強く標識した。3、4日経過後、頭頚部の14種類の神経節について逆行性に標識された神経細胞を調べた。この逆行性標識は交感神経細胞の線維(軸索)の末端まで運ばれたWGA-HRPが交感神経線維から放出され、その近傍の神経線維に取り込まれ、その線維の中を今度は細胞体に向かって逆行性に輸送され、細胞体に蓄積したものと解釈される。これを順行性-逆行性神経越え標識と呼ぶ。本研究はこの神経越え標識を利用して各種末梢神経線維の間の絡まり合いを調べた。 交感神経系の反対側の上頚神経節や星状神経節では大量の陽性細胞が認められたことから、交感神経同士はWGA-HRPを良く交換することが分かった。しかし、同じ自律神経系に属する副交換性の毛様体神経節、翼口蓋神経節、耳神経節では陽性細胞の数は少なく、蓄積度も低かった。知覚神経系の三叉神経節や脊髄神経節でも数も少なく標識度も高くなかった。以上の結果から、左右の交感神経線維は互いに密に絡まり合い、標識物質を良く取り込んだことになる。副交感神経の神経細胞は交感神経線維と同じ組織を拮抗的に支配しているにもかかわらず、標識物質の交換という点では密な関係ではないことが予想された。同様に知覚神経細胞についても交感神経とは密な関係とはいえない。 以上、末梢神経系の交換、副交換、知覚の各種神経細胞(線維)の間で標識物質の授受があったことは、各神経細胞において特有の物質の授受(交換)をしている可能性が高く、神経細胞間の相互認識のため機構の存在が確認できた。 今後、その物質がどのようなものなのか、また、それが神経機能にどのような影響を及ぼしているのかを研究していく新しい足がかりができた。
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