研究概要 |
src tyrosine kinaseの神経細胞の再生反応における役割を明らかにする目的で、軸索傷害後に再生を示す細胞と、変性を示すものとの比較検討を行った。tyrosine kinaseの反応産物であるphosphotyrosineに対する抗体を用いた免疫組織学的および免疫電子顕微鏡学的検索より、軸索傷害後に再生を示す舌下神経核・変性を示す迷走神経核ともに神経細胞とミクログリアの膜に強い陽性反応を示すようになり、軸索傷害により神経細胞のtyrosine kinaseの活性上昇の生じることが示された(Acta Neuropathologica,88;14-18,1994)。platelet derived growth factor(PDGF)とそのリセプターの検索により、舌下神経核においてはPDGFは軸索傷害により変化を示さないが、迷走神経核では神経細胞死に先行してPDGFの消失が見られた。しかしPDGFリセプターに関しては、軸索傷害により両神経核とも変化を示さなかったこのことから、神経細胞の再生反応にPDGFなどの神経栄養因子の作用が重要であることが示された(Brain Res,651,108-114,21994)。一方、src tyrosine kinaseに対する抗体は軸索障害後の舌下神経核でのみ神経細胞に陽性反応が認められ、変性を示す迷走神経核や無処置の神経細胞には認められず、src tyrosine kinaseがその他のtyrosine kinaseとはことなり、神経細胞の再生反応において特異的に働いている可能性が示唆された(未発表データ)。PDGFのリセプターはsrc tyrosine kinaseと会合することが知られており、その作用はSrcを介したシグナル伝達によりもたらされると考えられる。これらのことから、PDFGをはじめとする神経栄養因子の神経細胞に対する生存・維持・再生効果は、特異的にsrc tyrosine kinaseを介して神経細胞に作用していることが示唆された。以上の検索は、組織の固定・反応ともバイオシェーカーを使用して行ったものである。
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