src tyrosine kinaseの神経細胞の再生反応における役割を明らかにする目的で、迷走神経・舌下神経という変性・再生反応をそれぞれ示す神経系を使い、軸索切断後のSrcの変化を蛋白およびmRNAレベルで検索した。1.免疫組織化学的検索では、Srcに対するpolyclonal抗体と、SrcのSH3部分に対するmonoclonal抗体を用いて検索した。その結果、polyclonal抗体で認識されるSrc自身は両神経核の対照側、処置側ともに蛋白の存在が認められ、また免疫反応にも強弱の差は明らかではなかった。一方、SH3に対するmonoclonal抗体で検索すると、舌下神経核の切断側のみに陽性反応が認められ、舌下神経核の対照側や迷走神経核の対照・切断側ともに反応は認められなかった。Srcは活性化においてそのコンフォーメイションが変化し、隠されていたSH2が表面に現われ、そこにphosphotyrosineが結合するが、この時にSH3も表面に現われる。これらのことから、舌下神経核の切断側に見られたSH3の免疫反応はSrcの活性化を現しており、Srcの活性化が生じる舌下神経核の神経細胞は再生が生じ、活性化の生じない迷走神経核では神経細胞が変性すると考えられた。2.処置後のラットより神経核を実体顕微鏡下に採取し、Western blottingを行った。その結果、両神経核とも切断によっては蛋白量には有意な変化が見られなかった。3.In situ hybridizationはデータベースとしてGenetyx CD(version28)を使い、ラットの配列は登録されていないためマウスの配列に従って45merのT-T dimer labeled oigonucleotide probeを用いて検索したが、結果が極めて不安定で信頼できる結論は得られなかった。しかし、最近のデータ(version32)では以前と異なる配列が記載されており、我々が当初使った配列には、本来cDNAには含まれないイントロン部分が存在していたことがわかった。平成8年3月1日現在で、インターネットによりcDNA配列を検索してもラットのものは報告されておらず、我々は現在マウスとのhomologyを利用してin situ hybridization用のprobeを作成しつつ、ラットの全配列を決定すべく仕事を継続している。
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