研究概要 |
ミュータントマウス組織の共培養実験による検討。共培養の実験系を用い[^3H]5HTの取り込みを指標として,S-100β蛋白のグリア細胞における発現と脳幹セロトニンニューロンの成長・発育との関係を解析した。無血清培地による5日間の培養により,正常新生仔マウス(+/+)からの海馬組織は,+/+および新生仔ミュータントマウス(Pdn/Pdn)からの脳幹セロトニンニューロンの発育・成長を促進させた。一方,Pdn/Pdnからの海馬にはこの効果は観察されなかった。これまでの免疫組織化学による検討から,新生仔期海馬におけるS-100β蛋白の発現は+/+においてのみ観察された。以上から,本ミュータントマウス海馬におけるセロトニン線維発達の障害と海馬におけるS-100β蛋白の発現遅延との相関が示唆された。S-100βantisense geneによるS-100β蛋白の成長因子としての機能阻止の検討。ラットグリオーマからクローン化された腫瘍株細胞C6細胞はS-100β蛋白を合成・分泌することが知られている。C6細胞の遺伝子操作によりS-100βantisenseを組み込ませクローン化した細胞・C6AS細胞とC6細胞とを成熟ラットの左右の海馬へ移植し,腫瘍細胞におけるS-100β蛋白の発現および腫瘍組織内への宿主セロトニン線維の伸長を検討した。移植2週間後,C6細胞およびC6AS細胞は共に宿主海馬内で腫瘍塊を形成した。S-100β蛋白の発現はC6細胞に観察され,C6AS細胞には見られなかった。また,宿主セロトニン線維はC6細胞腫瘍塊の内にのみ伸長していた。以上により,C6AS細胞ではS-100βantisense geneによるS-100β蛋白合成阻止があり、この為にセロトニン線維の伸長が妨げられたと考えられた。これはS-100β蛋白のセロトニンニューロンに対する神経成長・栄養因子としての働きを示すものである。
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