研究概要 |
これまで、中脳黒質の発生過程が齧歯類で調べられ、中脳ドーパミンニューロンは中脳基板内側部の神経上皮層で最終分裂を終えた後、最初は腹側に、次いで外側に移動して黒質緻密部を形成することが報告されてきた。我々は、マウス胎仔におけるドーパミンニューロンの移動様式を免疫組織化学的に調べ、腹側への移動には細胞外基質分子テネイシンを発現する放射状グリアの突起が関与し、外側への移動にはIgスーパーファミリーに属する神経接着因子であるL1やNCAM-Hを発現する神経線維が関与することを明らかにした(Kawano, Ohyama, Kawamura and Nagatsu, Dev. Brain Res. 86:101-103,1995;川野、湯浅、大山、川村神経の機能再建、西村書店、1996 印刷中) さらに、共焦点レーザー顕微鏡と三次元画像解析コンピューターシステムを用いて、蛍光トレーサーや蛍光抗体により得られたデーターを観察および解析することにより、中枢神経のニューロンの移動の機序を調べることに成功した。その結果、(1)蛍光トレーサーであるDiIを4%パラフォルムアルデヒドで固定した胎生12日の中脳原基に注入し、5日後に100μm厚の切片を作り、共焦点顕微鏡を用いて観察し、ドーパミンニューロンの外側への移動をガイドする神経線維が中脳外側部に存在することを明らかにした(Kawano, Ohyama, Kawamura and Nagatsu, Dev. Brain Res. 86:101-113,1995)。また、(2)ドーパミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)に対する特異抗体とDiIを用いて蛍光二重標識を行い、共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、幼若なドーパミン含有ニューロンの細胞体が他の神経線維と接触しつつ移動する像が観察された。これらの結果は、発生初期の脳に存在する特異的な構造とそれに特異的に発現する分子がニューロンの移動に重要な役割を果たすことを示している。
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