研究概要 |
培養マウス神経芽腫細胞NS-20Yの細胞周期に対して、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤PDMP(1-phenyl-2-decanoylamino-3-morpholino-1-propanol)および種々のスフィンゴ脂質が及ぼす効果をフローサイトメトリーにより検討した。PDMPは細胞のスフィンゴ糖脂質含量を著しく減少させるとともに、細胞の増殖を抑制することはすでに報告している。NS-20Y細胞へのPDMP(50μM,24h)の添加によりS期細胞の減少とG0/G1期細胞の増加が明らかに認められた。G2/M期の細胞には有意な変化を認めなかった。一方、スフィンゴシン、スフィンガニン、スフィンゴシン-1ーリン酸では、細胞周期に変化はみられず、短鎖セラミド(N-acetyl-D-sphingosine,N-hexanoyl-D-sphingosine)、スフィンゴシルホスホコリンも細胞周期に影響を与えなかった。これらの結果から、PDMPによる増殖の抑制はG0/G1期での細胞周期の停止によるものであると考えられるが、これはセラミド、スフィンゴシンなどの増加によって起こるとは考えにくく、スフィンゴ糖脂質の減少が重要である可能性が示唆された。また、セラミドやスフィンゴシンには細胞の種類によってアポトーシスを誘導する作用があることが知られているが、NS-20Y細胞ではDNA含量の解析パターン上ではアポトーシスは認められなかった。細胞の形態については、無血清条件下での神経突起伸展(50〜60%)と比べてわずかであったが、PDMPの添加により神経突起の有意な伸展(5〜10%)がみられた。これに対してスフィンゴシン、短鎖セラミドは神経突起の伸展をまったく起こさせなかった。
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