研究概要 |
線条体における神経とグリアとの係わりを考える場合、MPTP等の神経毒や線条体の損傷に対して、NOが神経細胞に対しどのような影響を及ぼすか興味がもたれる。初年度は、誘導性NO合成酵素(iNOS)およびグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)のcDNAをクローニングするとともに抗体を作製し、iNOSおよびGDNFの発現を組織レベルにて分析する系を確立した。本年度は、線条体においてiNOSの誘導がおきる損傷モデルの作製を試み、初期応答遺伝子、iNOS、神経栄養因子、サイトカイン等の遺伝子発現の解析を行った。 損傷モデルを作製する上では、ラットの線条体にエタノールを直接注入し、組織を壊死させる方法が最も有効で、線条体の約20%を変性させる系を確立した。この損傷モデルを用いRT-PCR法により各種遺伝子の発現パターンを経時的に解析したところ、c-fosの遺伝子発現に続いて、インターロイキン-6、顆粒球コロニー刺激因子およびiNOS遺伝子の誘導が起こり、エタノール注入後、各々6,12および24時間でその遺伝子発現が最大となった。一方、GDNFを始めとする各種の神経栄養因子の遺伝子発現の変動はなかった。iNOSに関して、さらに、in situ hybridizationおよびimmunohistochemistry法により分析したところ、壊死した部位を取り囲むようにしてアストログリア細胞にiNOSのmRNAおよび蛋白質が発現していることが分かった。さらにエタノール注入後5日目には、このグリア細胞群から一定の領域にある神経細胞が脱落し、ミクログリアが出現し、グリオーシスが進行していた。しかし、iNOSの阻害剤(L-NAME)をあらかじめラットに投与して措くとその範囲にある神経細胞の脱落は減少した。以上のことから、グリア細胞の生成したNOは壊死した部位からある一定の領域に存在する神経細胞をさらに脱落させることが明らかとなった。
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