神経系は高度に分化した複雑な組織であり、その機能維持のために多くの遺伝子が厳密な調節機構のもとで発現していると考えられている。近年、神経発生時にその発現が変化する遺伝子が検索されているが、いまだにその報告は充分ではなく未知の重要な遺伝子が存在すると考えられている。我々はサブトラクション法とプラスマイナス法を併用することにより、マウス脳腫瘍由来NS20Y細胞のdbcAMPによる神経分化に伴って高発現するクローンN27KとそのスプライシングフォームN23Kを得た。この両遺伝子は(1)ノーザンブロットでのmRNA発現量はNS20Y細胞の神経突起伸長時に一過的に増加する、(2)成熟マウスのノーザンブロットでは脳・脊髄にのみ発現する、(3)胎生期マウス脳での発現が一過的である、という特徴を持つ。そのオープンリーディングフレームを決定し、抗体作製によりN27KとN23Kがコードするタンパク質もまた神経突起伸長に伴い突起先端にドット状に局在し、ネットワーク形成時には非常に減少することを見いだした。ところが、このアミノ酸配列は1995年10月12日号Natureに掲載されたラット脳由来新規神経ペプチドnociceptinの前駆体と本質的に同一のものであることが判明した。Natureの論文は薬理学的アプローチによるものであり、前駆体cDNAの全長はクローニングされておらず、この分子が神経分化に関与することにはまったくふれていない。我々の結果は、この新規神経ペプチド前駆体は単なる"前駆体"として以外の役割を神経発生中に果たすことを世界に先駆けて示したものである。
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