研究概要 |
1) サル中隔核の場所認知機構 実験室内の場所(4カ所)と物体(4種類)の組み合わせ(合計16種類)を識別する条件課題(場所依存性非対称性物体識別課題:PGN課題)遂行中のサル中隔核から430個の単一ニューロン活動を記録した。これら中隔核ニューロンのうち,58個がサルの居場所に関して識別的に応答し(場所識別応答ニューロン),海馬体より入力を受ける外側中隔核の中央部〜尾側に多く分布していた。さらに、これら58個の場所識別応答ニューロンを用い,4つの場所について多次元尺度分析(MDS)を行なった。その結果,MDS上で再現された4つの場所は,実験室内における4つの場所の実際の配置と非常によく一致していることが判明した。以上から,中隔核では,海馬体からの空間情報に基づき,cell assembly(細胞集合体)による空間表現が行なわれていることが示唆される。 2) サル中隔核における動機づけ行動の神経機構 ジュースや種々の食物を報酬とする物体識別課題遂行中のサル(12時間絶水・絶食)から記録した349個の中隔核ニューロンのうち,67個が摂取期に応答した。さらに,これら67個の摂取期応答ニューロンのうちの31個に対し,サルに繰り返し課題をテストすることにより,報酬の摂取量およびサルの動因状態の変化(サルにジュースの入った注射筒を見せ,i)注射筒に手を伸ばして積極的に摂取する状態,ii)注射筒を口に近づければ受動的に摂取する状態,およびiii)ジュースを飲まない状態の3つの異なる動因状態)と中隔核ニューロンの自発放電頻度および報酬摂取に対する応答性を比較した。その結果,i)ジュース報酬に抑制的に応答したニューロン(TypeI,n=10)の自発放電頻度が,ジュース報酬の摂取により次第に低下した,ii)ジュース報酬に興奮性に応答したニューロン(TypeII,n-21)の自発放電頻度は,ジュース報酬の摂取により変化しなかったが,ジュース摂取期の応答が次第に低下した,iii)これらニューロン応答の変化とサルの動因状態の変化には非常に高い正の相関がある,iv)これらのニューロンは中隔核の吻側部に多く分布していることが判明した。以上から,中隔核は,動因/動機付け機構に対して抑制的に機能していることが示唆される。
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