平成6年度の本研究の目的は、RAにおいてHVcとIMANの入力が統合処理されること明らかにすることである。RAの聴覚応答特性を明らかにするため、キンカ鳥に一般的な歌要素の周波数構成(CF部のハ-モニクスの一つを削除)を変化させて刺激として与えた。記録したRAの聴覚応答特性を、すでに明らかにしたIMANとHVcの特性と比較検討した。 RAではIMANと同様に、特定の周波数構成にのみ応答するニューロン(周波数構成特異性ニューロン)が見つかった。RAの周波数構成特異性ニューロンは第2ハ-モニクス削除の歌に選択性を示したが、IMANのそれは主に第3ハ-モニクス削除の歌に選択性を示す。一方、HVcでは周波数構成特異性ニューロンは存在せず、聴覚性ニューロンはすべて第2ハ-モニクスの周波数成分に依存した応答を示す。このことから、RAの周波数構成特異性ニューロンは、周波数構成に特異性を持つ点でIMANの性質を持ち、第2ハ-モニクスに依存する点でHVcの性質を持つと考えられる。RAにおいてIMANとHVcの入力が統合されて、IMANやHVcとは違った音声分析が行われていると予想される。第2ハ-モニクスと第3ハ-モニクスとでは、それぞれが担っている行動学的意味が異なると予想されるので、RAとIMANにおいて異なる情報が並行処理されていることが示唆される。 IMANとHVcの両入力がどのように統合されるかを明らかにするため、現在IMANまたはHVcを破壊した鳥のRAニューロンの応答様式を調べている。平成7年度にも、この実験を続ける予定である。更に7年度では、RAの周波数構成特異性ニューロンが鳥の個体としての認識に関与していることを明らかにするため、RA破壊の鳥と正常な鳥との歌の認識能力の差をオペラント学習実験の手法を用いて調べる。
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