本研究の目的は、ヒト言語との類似性が認められるキンカ鳥の歌を用いて、発声運動中枢RAにおける音声認識機構を明らかにすることである。そのため、(1) RAの聴覚応答特性を調べ、すでに明らかにしたIMANとの特性と比較検討すると共に、(2) RAにおける聴覚情報の統合を検証した。 (1)キンカ鳥に一般的な歌要素の周波数構成を変化(CF部の倍音の一つを削除)させて刺激として与え、RAニューロンの聴覚応答特性を調べた。IMANと同様に、RAでは特定の周波数構成にのみ応答するニューロン(周波数構成特異性ニューロン)が見つかった。しかし、周波数構成特異性ニューロンのタイプが両者で異なった。RAでは第2倍音削除の歌及び全倍音が揃った歌に選択性を示したが、IMANでは第1または第3倍音削除の歌に選択性を示す。特に、第2倍音と第3倍音とでは、それぞれが担っている行動学的意味が異なることが行動実験から予想される。RAとIMANにおいて意味の異なる音声情報が並行処理されていると考えられる。 (2) RAにおけるIMANとHVcの入力の統合を明らかにするため、IMANを両側性に破壊した鳥のRAニューロンの応答様式を調べ、正常鳥と比較した。IMANを破壊した鳥では周波数構成に特異性を示さず、すべてのパターンに同様な応答を示すニューロンが正常鳥よりも多く見られた。IMANの入力により周波数構成特異性が増強されると考えられる。また、正常鳥に比して、周波数構成特異性ニューロンのタイプの分布に変化がみられた。RAニューロンに見られる周波数構成に対する特異性は、IMAN及びHVcの両入力の統合により形成されると考えられる。 以上のことから、RAにおいてはIMANとHVcの両入力による統合の結果、IMANとは意味の異なる音声情報を処理すると考えられる。
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