発生過程において脳内のニューロンは脳室層の細胞から分化するが、近年、視床下部ニューロンであるGnRH (LHRH)産生ニューロンは脳外の嗅板で発生し、嗅神経に沿って脳内へ移動し中隔-視索前野-視床下部系へと分化することが分かってきた。嗅板細胞標識実験によって、LHRHニューロン以外の嗅板細胞も脳内へ移動することを見いだしたため、本研究では嗅板由来細胞が脳のニューロンとしてつけ加わる現象の解析を目的とした。 LHRHニューロン以外の嗅板由来細胞の種類を知るために、ニワトリ胚の嗅覚-前脳系の免疫組織化学染色から、ソマトスタチン陽性反応を得た。嗅細胞とその軸索(嗅神経)、嗅神経中に存在する移動細胞およびLHRHニューロンの移動経路である前脳内側部表層に伸長する神経線維がソマトスタチン陽性であった。経時的追跡から、これらはLHRHニューロンの移動が最も盛んな時期に一致して発現の強度を増し、孵化時にはほぼ消失する一過性のものであった。ソマトスタチン陽性細胞とLHRHニューロンの発現部位および発現時期は重なるが、同一切片による蛍光二重染色の結果、ソマトスタチン陽性細胞はLHRHニューロンとは異なる細胞集団であることが分かった。発生進行とともに嗅覚部から前脳ヘソマトスタチン陽性細胞の分布が広がっていく過程は、この細胞がLHRHニューロンと同様に脳内へ移動する嗅板由来細胞である可能性を予測させる。 一方、ソマトスタチン陽性細胞と陽性線維の発現部位、発現時期がLHRHニューロンのそれとほぼ重なるという組織学的観察およびソマトスタチン陽性反応の強度がLHRHニューロンの移動の最盛期に増加するという結果から、LHRHニューロンの移動に対しソマトスタチンあるいはソマトスタチンを発現する神経要素が何らかの役割を果たしているのではないかという示唆を得た。
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